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「正調」とは何か。伝統における“本質”と向き合うための、5つの思考

2017/02/24

今回は、本質を探求することについてです。

阿波踊りの業界では、伝統を受け継いだ正しい流派のことを「正調」と呼びます。

この「正調」ほど、人によって認識が違うものはありません。なぜ解釈がここまで様々になるかを、寶船の活動を通して考えてきました。

そこで一つの答えがありました。「正調」に至るまでの思考、つまりフレームワークが様々だからだと気が付いたのです。

「正調」を探究する5つの思考

これは、バンドマンが語る「ロックとは何か」、役者が語る「演劇とは何か」などと同じ。本質をどう見極めるかの思考法です。

今回は改めて「正調を探究する5つの思考」と題してお送りいたします。

阿波踊りの話を例にして話を進めますが、様々なジャンルに当てはまる内容です。ぜひ最後までお付き合いください。

1. 現状把握型

まず「正調とは?」と考える時に一番多いであろう思考は、「現状の業界にあるものを考える」という思考です。

阿波踊りであれば、

  • 女踊りと男踊りがある
  • よしこのを演奏する
  • 女踊りは鳥追い笠をかぶる
  • 男踊りは浴衣とハッピがある
  • 鉦、大太鼓、締太鼓、三味線、笛がある

などです。

現在の市場の中で常識となっているものを要素として捉え、それを「正調」とする。阿波踊りは本場・徳島が有名。関東では、高円寺や南越谷が有名です。その阿波踊りに常識として広まっている踊り方、スタイルこそが本流だ、と考える思考です。

これを、私は『現状把握型』と呼びます。
阿波踊りを全く知らない人や、関東などで阿波踊りをやっている人の多くは、この型の思考をします。

しかし、これには落とし穴があります。

“現在世の中に常識となっているものが本流とは限らない”ということです。

例えば、法被の衣装が出来たのは戦後のこと。女踊りの鳥追い笠も戦後。歴史的には最近なのです。

2. 周囲学習型

『現状把握型』は現時点にフォーカスを当てたもの。より正調への思考を深めるとしたらどうすればいいでしょうか。

次のフェーズとして、阿波踊りを知ってる人から学習するという方法があります。

徳島生まれの人は、自身の経験で阿波踊りとは何かを無意識に感じ取っています。そして、周囲の人から「今は阿波踊りって〇〇だけど、俺の子どもの時は〇〇だったよ」という話を聞いて育っているはずです。

すると自然に、「今の現状」だけでなく「昔を知る人」の話や経験の時間軸を比較し、本質に迫ることができるわけです。

この思考を、『周囲学習型』と呼んでいます
これは、阿波踊りをやっている徳島生まれの人におそらく多いであろう思考タイプです。

関東で阿波踊りをやっている中にも、徳島の連と交流したり、姉妹連を組んでいる方がいらっしゃると思います。そんな方々は、交流している方から「阿波踊りとは何か」という本質を学んでいるでしょう。その場合も、この思考に当てはまります。

『現状把握型』よりもはるかに本質と向き合えるこの方法ですが、このパターンにも落とし穴があります。

“周囲の人の思想に依存しやすい”、そして“昔を知る人が生まれるさらに以前は、推測の範囲である”ということです。

3. 歴史認識型

『周囲学習型』は、今健在な方や環境から学習していく思考ですが、さらに一歩深掘りをすると、歴史に向き合うしかありません。

そこには、冒頭に述べた『現状把握型』とは対立するであろう事実が多く存在します。

阿波踊りの歴史であれば、

  • 大正、昭和初期は管楽器やマンドリン、バイオリンが使用されていた
  • 昭和初期までは男性も白塗りの化粧をしていた記述がある
  • 江戸時代は、「よしこの」には下ネタの歌詞が多く存在した
  • 江戸時代の阿波踊りは、歌舞伎を即興芝居で行う「俄(にわか)踊り」や、能楽のような舞を踊る「組踊り」が一世を風靡していた

などです。

こういったことを無視して「正調」や「伝統」と言っても、それって歴史の中では近代だけの話じゃない?と感じてしまうはずです。

誠実に原点を見つめ直す、歴史の流れを理解する。これが正しい解釈をするための第一歩となります。

歴史的事実を見つめ直すことは、本質を語る上で外せない要素なのです。

この思考を、『歴史認識型』と呼んでいますしかし、この『歴史認識型』にも落とし穴が存在します。

それは、“時代ごとに移り変わる歴史を認識しても、つまり何が本質?と定まりにくい”“歴史解釈は知識によって差ができる”という点です。

勉強のように歴史を覚え、新しい発見があり、「あれも阿波踊りなんだ!これも阿波踊りなんだ!」という視野が広がることはとても大切です。

しかし、それだけでは残念ながら「正調」の答えは出てきません。

4. 要素分解型

歴史を認識した後、それをどう分析するか。次はそのフェーズになります。

歴史の中で、踊り方は常に変わっている。鳴り物も変わっている。では共通しているものは何なのか?それを紐解いていくことが必要です。

ここまで思考を深めてくると、『踊り方』や『着ているもの』、『鳴り物』などの要素は、時代の変化に左右されることがわかってきます。伝統であろうと、いつの時代も革新を続けてきた歴史があるのです。

カタチとしては「絶対的な正調はない」、それもまた一つの答えかもしれません。

しかし今回はもう少し深掘りし、“受け継がれてきた意味”という「正調」を考えてみたいと思います。

この場合、要素を分解し、様々なものと共通点を見出すことで、その輪郭を浮き彫りにしていくことが有効です。

この思考を、『要素分解型』と呼びます
「リズムに乗って踊ること」という要素を様々なフェスティバルと比較し、「阿波踊りとEDMフェスは、同じ欲求によって生まれている」と分析する。「民衆が非日常へ繰り出すこと」という要素を他のイベントと比較し、「ハロウィンムーブメントは、阿波踊りといえるか!?」と思考するなどです。

「踊り」の要素を分解し、フラダンスやサンバと対比して魅力を考えてもいい。阿波踊りの即興性を、ジャスのセッションと比較しても面白い。

「やっとさー」という掛け声を、他の方便と比較し本質の意味をさぐってもいい。

『阿波踊りが沖縄のカチャーシーに似ているのは、その昔”黒潮”に乗って文化が流れて来たからだ』という事実を取り上げ、黒潮の流れで広まった文化を調べてもいいでしょう。

こう思考を深めることにより、より本質的な阿波踊りの魅力に迫ることになります。

様々な要素を分解し論理的に対比することで、『阿波踊りの価値』を改めて実感することができるわけです

 

さて、ここまで「正調」に向き合う思考を4つ紹介しました。ここまででかなり深くまで本質に迫って来たかと思います。

しかし、これだけではまだ「正調」の本質を語れません。

それはなぜでしょうか?

5. 未来提示型

文化、伝統は、必ず「はじまり」と「今」があります。ここまでは、上記の4つで説明ができます。

しかし、この4つだけで「正調」を語ると、大きな落とし穴があります。

それは「これから」という視点です。

「現在・過去・未来」が3つ揃って伝統が次世代に続いていくのです

はじまりから今・2017年までを思考し、「正調」の答えを出すとします。すると、3年後には2020年になります。出した答えの「正調」は、2017年までの現状把握と歴史認識を基盤に考えているわけですから、3年後には3年間分の空白ができるわけです。

これが、文化や伝統が時代から切り離される要因です。

落語家の故・立川談志さんは、『伝統とは今を加え続けることだ』とおっしゃっていました。今を加え続ける人がいなければ、伝統は未来へ繋がらないのです。

つまり、1〜4のフレームワークで「正調」と「本質」を思考した上で、『今何をすれば時代と文化が切り離されず、ムーブメントを起こし続けられるか』それを常に考えることが重要であるのです。

この思考を、『未来提示型』と呼んでいます 未来を常に提示し続けなければ、伝統文化は必ず衰退していく。なぜならば、過去の産物となるからだ、という考え方です。

本当の「正調」とは過去の集約ではなく、未来へバトンを渡すこと、つまり現代にムーブメントを作るために切磋琢磨することとも言えます。

まとめ

  1. 現状把握型
  2. 周囲学習型
  3. 歴史認識型
  4. 要素分解型
  5. 未来提示型

という、5つの「正調」への向き合うためのフレームワークをご紹介しました。いかがでしたでしょうか。

思考を深め、表面的ではなく本質に迫った魅力を認識すると、視野も広がるのではないでしょうか。

参考にしていただけたら幸いです。

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米澤 渉
1985年、東京都生まれ。一般社団法人アプチーズ・エンタープライズ プロデューサー。寶船プロメンバー「BONVO」リーダー。山形県米沢市おしょうしな観光大使。日本PRのCM『日本の若さが世界を変える』に出演。「my Japan Award 2014」 にて《箭内道彦賞》を受賞。

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