最近、芸能と日本の文化を考えるとき、世阿弥の言葉を思い出します。
歌舞伎と阿波踊りは、歴史をさかのぼると起源は同じであると以前書きました。
もっと言えば、能も落語も文楽も漫才も、起源の根本は同じなのかもしれません。
つまり、どの要素を強く押し出し歴史を積み重ねたかの違いで、全く異なる芸能に発展するのです。
世阿弥の言葉
その日本文化の根本を、わかりやすく、現在でも通用する言葉で説いたのが世阿弥でした。
世阿弥については詳しい方々がいると思うので割愛しますが、とにかく日本の芸能を学ぶと必ず通る人物です。
世阿弥/是阿弥(ぜあみ)
[1363?~1443?]室町前期の能役者・能作者。観阿弥の長男で、2代目の観世大夫。本名、観世元清。通称三郎。足利義満の後援を得て、能楽を大成した。「風姿花伝」「花鏡」「至花道」ほか20余部の伝書は、日本の芸術論を代表する。
世阿弥が残した芸能についての言葉は素晴らしく、普遍性があります。また歴史に残る様々なジャンルの先人達を見てみても、驚くほど世阿弥の言葉に当てはまっていることにも気が付きます。
そのため、阿波踊りの未来を考える指標として、世阿弥の言葉を借りて考えてみます。
住する所なきを、まず花と知るべし
世阿弥の言葉で、「住(じゅう)する所(ところ)なきを、まず花と知るべし」という言葉があります。
「住するところなき」とは、「そこに留まり続けることなく」という意味。同じ場所で留まるのではなく、常に変化し続けることが芸の本質である、ということです。
日本文化や伝統というと、先人たちの「型」を受け継ぐことが大事であると考えがちです。
私自身もそうでした。もちろん、「型」を習得することは何より大切です。洗練されたものが型になり、歴史が凝縮されているからです。
しかし、そこで思考が終わり、スタイルを守ることのみになってしまうことは伝統の本質ではないと世阿弥は言います。伝統の元祖である世阿弥は、文化や芸能こそ変化し続けなければならない。変化をためらう芸は死んだと同じということを「風姿花伝」の中で説いています。
阿波踊りにおいても、やたらと「正調」という言葉を使う人がいます。
しかし、本当に知識や歴史を知る人は、「正調」なんてものは存在しないことを知っています。
阿波踊りは時代によって芸体を様々に変化させていることは、ご承知の通りです。
現在の阿波踊りの芸体は、戦後に少しづつ確立されたもので、“今の型”だけを正調と呼ぶのは、400年以上の歴史の中では表面だけをなぞるようなものです。
ここで誤解のないように改めて言いますが、僕ら寶船は、徳島の阿波踊りを心底尊敬しています。
毎年徳島に行くと、その凄さや雰囲気に圧倒されます。
今でも徳島の連を見る時には、子供の頃に戻ったように心が踊り目が輝いている自分がいます。
本場の演者の皆さんや偉大な先人の皆さんを心からリスペクトしているからこそ、誠実に次の時代にバトンを渡したいという気持ちが湧いてくるのです。
「正調」だって、アップデートを続けている!?
現在、阿波踊り界のトップである有名連の皆様は、戦後の阿波踊りを確立させた世代です。三大主流という言葉も、現在阿波踊りのスタイルも、有名連の連長さん世代が生み出してきたものです。
それ以前には、娯茶平さんの網打ちも、天水連さんの奴踊りも、阿呆連さんの暴れ踊りの構成もありませんでした。
もちろん、女踊りの形も全く違いました。傘の被り方すら違います。
(昭和30年の女踊り)
そして興味深いのは、三大主流や今の「型」がない以前には、全く別の「正調」と呼ばれた「型」があったということです。
それに様々なアイディアを取り入れ発展させ、試行錯誤しながら今の「型」として定着させたのです。
まさしく「住する所なきを、まず花と知るべし」だと思います。素晴らしいです。
一世を風靡し阿波踊り界のトップに立った方々は、必ず「新しいこと」を取り入れているのです。
おわりに
色々な方のお話を伺いましたが、新しいことに挑戦するときには必ず批判が伴うそうです。
「こんなの阿波踊りじゃない」「正調を守れ」「伝統をなんだと思ってるんだ」という声は、古今東西いつでもあるようです。
それでも、観客を楽しませたい、驚かせたい、もっともっと面白いことをやろうという、純粋で前向きな挑戦が固定概念を壊し、新たな「型」を作るのです。
さて、その息子や孫にあたる僕らのすべきことはなんでしょうか。
どのように阿波踊りの可能性を提示し、次の世代にバトンを渡せばいいのでしょうか。
僕らの上の世代の皆さんが確立された「型」をコピーしペーストし続けることでしょうか。
それともその「型」をリスペクトした上で、更なる発展のために新しい挑戦と試行錯誤を繰り返し、生きた芸能を受け継ぐことでしょうか。
住する所なきを、まず花と知るべし。
時代のバトンを受け継げるのは、後者だと思います。過去に安住することなく、変化を恐れず「面白きこと」を探求する。それこそ芸能で大切な精神だと感じます。伝統をリスペクトし、今の時代の人々が心から熱狂できる芸能を探求し続ける、それが阿波踊りの精神です。
そしてそれは、文化や芸能全てに当てはまる普遍的な精神だと思います。
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